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橋本竜樹の日記             2020.05.22-05.28




5月22日

宅録

世の中が少し動き出したのか、コロナ禍で止まっていたコマーシャル企画の音楽の修正依頼が同時にいくつか来る。長い休暇が終わるのだろうか。そう思うと、もっと有意義に過ごすべきだったと、急に後悔の念に駆られるから嫌になる。

コロナ休みの数少ない成果の一つは自分の作品の作業を日常的にやるようになったこと。日常生活と音楽の仕事の作業が近いのが苦痛で作業場を持ったけれど、日常生活と音楽の作業場を切り離すと、自分の作品の作業に割く時間がほとんど無くなってしまった。熱意がないと言ってしまえばそこまでだが、元々バンドや楽器演奏ではなく、自宅録音が音楽のルーツなので、寝床の隣に音楽機材があるのが大事だと気付かされた。作業場の方も無駄に増えた機材やレコードを処分して、身軽に音楽に向かえる環境に作り変えたい。

これから仕事が元通りになればだけど。


5月23日

毛ガニ

毎日の献立に悩んでいる。困り果てている。シウマイが簡単で喜ばれるというアドバイスをもらったので、肉シウマイとエビシウマイを作ろうと決めて、閉店間際のオオゼキに入って鮮魚コーナーに向かうと、売値999円の上に半額シールを貼られて、おが屑と一緒にパッキングされた毛ガニが視界に入る。毛ガニがは半額にもかかわらず、まだ生きていて、おが屑の中でもぞもぞと脚を動かしている。その姿を見た瞬間、僕は脊髄反射的にその2パックを買い物カゴに入れた。シウマイは意識から消え失せ、献立の組み換えを即座に行う。息子は蟹が嫌いだから代わりのなにかが必要だ。刺し身コーナーに向かうと鰹のタタキが安い。家には万能ねぎと茗荷がある。駒は揃った!と変な高揚感に包まれて、足早にレジへ向かう。列に並びながらスマホで毛ガニの茹で方を確認する。蟹のダイナミクスを感じる。

茹でたての熱い毛ガニをハサミで捌くのに難儀していたら写真を撮り忘れた。それも蟹のダイナミクスか。


5月24日

ケッパー

スモークサーモンに乗っている緑の丸い玉。山椒のような木の実だとばかり思っていたが、その丸い玉、ケッパーは蕾だと教えてもらう。へえ。食べる花といえば花ズッキーニにチーズなんかを詰めて揚げた料理や、アーティチョークのソテーなんかが浮かぶ。調べてみたらフキノトウも蕾らしい。昔、花を食べるというと“ポーの一族”のエドガーのイメージだったけれど、もうすっかり酒のつまみだ。薔薇の紅茶を嗜む日は来ないだろうな。



5月25日

居酒屋

僕は半額の魚を求めて、いつもふらふらしている。オオゼキの鮮魚コーナーで半額になった鮭のアラを見つけて、居酒屋欲が溢れ出した。もう随分と所謂居酒屋にいっていない。今日は居酒屋的な献立にすることにする。栃尾揚げのオーブン焼きに茗荷とネギを乗せ、鶏もも肉の皮目をパリッと焼いてにんにく醤油を絡める。そら豆を房ごとオーブンで焼き、だし巻き卵と鮭のハラミのために大根おろしを大量におろす。そしてかっぱ巻と鉄火巻を盛り付ける。ああ楽しい。子供たちも、こういう居酒屋らしい献立を楽しめるようになったらしく、いつもより喜んでくれている。ただ、喜んでくれるのは良かったけれど、自分にとっては居酒屋というより、ただの忙しい台所だった。ただただ疲れた。

一段落して台所のスツールで飲むビールが美味しかった。



5月26日

サトルオノ

夜、SNSを開くとサトルさんが新曲をSoundCloudにアップしていた。サトルさんは京都にいた頃からの古い友人で、同じ時期に東京に居たこともあるが、今は地元京都でカフェの店主をしている。アップされていたのはサトルさんらしい、アップテンポで華やかなポップス・コード進行、飽きさせない展開の楽しい楽曲だった。

サトルさんのお店では今年の1月に、僕が2000年頃に京都でやっていた“Swingset”という音楽プロジェクトの楽曲を演奏するイベント『開店休業』の京都版をさせてもらった。サトルさんは当時のバンドメンバーで一緒にツアーを回ったりもした仲だ。1月のイベントにでは、同じく当時のメンバーだったSecond Royalの小山内くんも駆けつけてくれて3人で古い曲を一緒に演奏した。終演後は今回のバンドメンバーのあゆくん、まちこさん、PunPun、洋次郎、そして観に来てくれた何人かの古い友人を交えてサトルさんのお店で打ち上げをした。実は活動していた地元での開催にもかかわらず集客がとても少なく、若い頃の自分は他人に感謝がないダメな人間だったということを思い知らされ、反省する瞬間もあったが、それでも楽しい一夜だった。コロナ禍のせいで、随分と前のことに思えてしまう。

落ち着いたら京都に遊びに行きたい。




5月27日

アスパラ

ニコラに恒例の飯山のアスパラガスが入ったとのことで、早速食べに行く。僕はニコラで教えてもらうまでは知らなかったけれど、飯山のアスパラガスは皮が薄くて、味がしっかりしていることで有名らしい。最近、自分で野菜を買うようになるまでアスパラガスに限らず、野菜の旬を前より知るようになった。お店を食べ歩くのが楽しかった頃もあったけれど、今では旬を身近に感じることに心が踊る。

トリュフオイルとポーチドエッグを絡め、イタリアンパセリの青さを感じながら食べるアスパラガスは美味しかった。ワインがよく進んだ。散歩の途中、こうして家族に内緒で贅沢をしている。


5月28日

アーティスト

「アーティスト風な音楽を」という仕事依頼が来る。アーティスト風とは?と言いたいところだけど、ニュアンスはわかる。依頼主は悪ふざけをしているし、僕も悪ふざけに乗っかってしまう。こういう卑屈な姿勢は良くないが、傲慢でいるよりはいいだろうという言い訳が浮かぶ。果たしてそうだろうか。傲慢な人間には、傲慢さを背負う強さがあるはず。
と、最近はずっとこんな具合で、全てにおいて否定も肯定もできない。自分がない人間の言葉は本当に軽い。自己嫌悪にまみれながら、一生懸命、職業作曲家の仕事をした。



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執筆者:橋本 竜樹 / ハシモト・タツキ

de.te.ri.o.ra.tion主宰、Deterio Liber発行人。

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