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MAGAZINE

ISSUE:01 「綺麗なまま尖っている本」横山雄さんインタビュー・前編

「綺麗なまま尖っている本」

横山雄さんインタビュー・前編

 

 
今年4月、Deterio Liberより刊行した庄野雄治『たとえ、ずっと、平行だとしても』。
その装幀を担当してくださった、デザイナー/イラストレーターの横山雄さんにインタビューをしました。
今回の造本についての細かなお話や、横山さんのデザインのインスピレーション源、本についての考えなどを前・後編にわけてお届けします。
前編は今回の造本についてのお話です。
6月某日、都内の横山さん事務所にて。
 
TEXT by カワイアミ
 
 

カワイ ( 以下、カ )
ー先日は下北沢B&Bさんでのトークありがとうございました。イベント後に、登壇くださった校正者の牟田都子さんから「もっと横山さんのお話を詳しく聞きたい!」というお声があり、確かに私も皆さまにもっと深くお伝えしたいなと思い、このような機会を設けさせていただきました。よろしくお願いします。

横山 ( 以下、横 )
ー先日のトークではお話できなかった部分も詳しくお話できたらと思います。重複する部分もあるかと思いますが、よろしくお願いします。

 

造本について

 


ーまずは今回の造本について詳しく伺って行きたいと思います。


ー最初は庄野さんから、レイモン・クノー『文体練習』のような感じのシンプルで文字しか入れない、とにかく「美しい本」にしたいという希望がありました。
文字だけといっても最近の、表紙にキャッチコピーがバーンと載っているようなものではなく、限りなく「小さい文字で小さい声で」というところからスタートしました。
今回の表紙の文字は、本の宣伝の常識としてはかなり小さいほうです。
こういうデザインは作れと言われれば作れるし、できるデザイナーさんもいると思うけど、全員が「これいいね」と言ってくれる仕事ってなかなか無いです。だからそう言った意味でもとても貴重な機会でした。
やはり本の表紙って、Amazonのサムネールの書影になったりとか書店で平積みされたりするという広告の役割があるんです。だから基本的にはみんな目立ちたいと言うだろうし、情報も大きく入れたい。そういった状況で、じゃあ小さかったら目立たないのか? というわけではないと思ったんです。やりようによるなと。
表紙のシステム、レイアウトを普通のものとずらせば、画面がすごく主張していなくても面白い本になるというか攻めた本になるし、綺麗なまま尖っている本になると。


ー「綺麗なまま尖っている本」。いい言葉ですね。


ー静かな声のまま目立たせる方法というのがあって。例えばこれは、題名が名前より大きくてその脇にサイズ下げて著者の名前が入っていてっていう、そういう基本的な作り方をしなかった。自分で表紙に必要な要素を出すということをしました。


ー表紙に必要な要素というと?


ーまず1. タイトル、2. 著者名、3. 版元ですね。本来はタイトルが一番大事だから目立つ、その次に著者名、最後に版元の名前がくるっていうのが、情報が人に届く重要度の順番ですよね。それに合わせて1、2、3の情報に強弱をつけていくのが普通なのですが、今回は限界ギリギリまでその強弱の差を無くしてるんです。
強弱の差は文字のサイズでつけたり、色を変えたりとかすることで「ジャンプ率」というんですが、それを今回は緩やかにしました。


ー高くジャンプさせないということですね。


ーそう。それは結構最近の私のデザインのクセですね。でも最低限自分の中で優先順位はつけていて、今回だとタイトルと著者名は太字にしていて、タイトルにはアンダーラインが入っていて位置が最初にくるということぐらいで、過剰な差をなるべくつけないようにしました。


ーなるほど。これ、目次を表紙に入れているっていうのはかなり斬新だと思うんですが。
 

 

ーこれは庄野さんが言い出して、みんなが「いいね」ってなって。音楽のレーベルから出すからレコードの曲目みたいに入れたら面白いよねってなって。


ーデザイナーとしてそれはどう思いましたか?


ーいやもうそれは大好きですよ。仕様を変えるっていうことのほうが面白い本になると思いました。印刷で面白いことやろうとかはあると思うんですけど、小さい版元で少部数発行、これから続けていくと考えた時にあまりお金はかけたくない。だからレイアウトとかで変わったことをするって言うのが変な話、一番コストがかからないんですよ(笑)。
紙を凝るとか印刷を凝るとかはコストがかかるから。


ー版元としてはありがたい(笑)。


ーあとはこれが今後のDeter Liberの文庫としてしばらくずっと続いていくテンプレートになるということもあって、あまり変えられない。そうなるとコストがかからないことは重要であると。その中で派手なことを画面にせずにインパクトを与えるには目次を表紙に入れるのはいい案でした。実際読者の方も面白がってくれているのをすごく感じます。


ーページ数の入れ方がすごくいいなと思いました。


ーそうですね。それも改行するとかいろんな方法があると思うんですが、一番差がわかりづらい方法にしました。一見よくわからないというか。


ーなんだこれって(笑)。よーく目を凝らして見てしまいました。

 
 

画像を見せながら説明してくれる横山さん
 
 


ーさっきの話に戻るんですが、なんでジャンプ率を低くしたかっていうと、時代が視覚的な情報の差みたいなのを目立たせたいから、どんどんどん過剰になっていると思うんです。それって見る人にとってはしんどいし。なんか情報に関しても過剰になっていて、ものすごくエンターテイメント、エキサイティングにしなきゃという感じ。それをせずに視覚的な情報自体の差を緩やかにしてあげるというのは、見る人に対しても情報そのものに対しても優しい行為なんじゃないかと。
だけど本来は情報の差、重要度の区別をつけてあげて、どこが大事な情報ですよっていうのを伝えてあげる責任はあるから、それをあんまりやらないんだったらやらないなりに誤解なく届ける最低限の責任は取らなくてはいけないです。


ー伝える責任をデザインで果たすにはやり方がいろいろあるって感じですね。


ーそうですね。デザインの学校の恩師の印象に残った言葉で、「外したらその責任は取る」っていうのがあって、常識やルールから外したり変わったことをしたらしたなりに責任を取る。基本的にデザインていうのは情報を伝えるための媒体なんで。


ーデザインは情報を伝えるための媒体、では伝わり方はどうなんでしょうか?


ーあっさり伝わればいいかというとそういうわけでもなくて、わからないってこともとても大事で。ざっといろんなものを見る時って、2秒くらいしか見られていないと思うんですよ。それに対して「なんだろう?」ってものはすごく人の興味を惹くんですよね。わかったらコミュニケーションがそこで終わってしまうけど、「なんだろう?」って思うものは続きをもう少し見てみようとなる。そこには何かが起こっていて、例えばこの本と人の間にコミュニケーション、気の流れみたいなのがあって、それがすごく活発になっているみたいな状態。それを作ってあげるっていうのが、広告宣伝的な要素を持った物体にとっての役割であると思います。でも辞書とかにはいらないですよ、そういうのは。元々本の表紙にはそういう役割は無かったけれど、昨今表紙で買うとか表紙に宣伝の役割がついてしまった以上、「わからない」というのは興味を惹くいい手段です。先ほどの恩師が「人間は潜在的にまだ見ぬものに惹かれる」と言っていて、ああなるほど、人間てそういうものだよなって。


ー確かに「ん?なんだろう?」ってものってじっくり見てしまいますね。今回の表紙の文字色や紙についてはどうでしょうか?


ー文字色は東洋インキの群青(写真参照)というのを使っています。この表紙では、地の紙の色をひろって実際には少し紫っぽくなっています。紙はハーフエアという紙で、あんまり黄色っぽい生成りではなく、文庫のカバーを外した時のような赤みのある生成りにしました。今回PPのフィルムもカバーもかけないとなった時に、どう考えても汚れるんですね。だったら汚れないようにと考えるよりはいい汚れ方=素敵な劣化をしていってほしいなという判断でこの紙を選びました。本、特に小説とかって持ち歩いたりするから汚れていくものだし、中に鉛筆で線を引いたりドッグイヤーしたりするもので、その汚れていく様が美しいんだよっていうのをヴィジュアルで表現したかったのもあります。

 
 

 

ー紙の手触りに関しては皆さまからも手に馴染む、日焼けしても良くなりそうなどと好評いただいています。


ーちなみに本文は秀英にじみ明朝というフォントを使っています。昔の金属活字から続いている、版を紙に押した文字の滲みを再現しているフォントセットなので、よく見るとインク溜まりみたいなのがあります。これ普通だったらあんまり本文に使うようなフォントではないので、足りない部分だけ秀英体を自分で太くして使っています。そうするとその部分だけ他と違って見えたりもしちゃうんですが、それがいいノイズになる。外身も汚れていく、綺麗すぎないものが成立するこの本だったらありかなと思いました。データでツルツルしている感じじゃなくって。
 
 


 

ーなんと、そんなことをされていたんですね(驚)。こういう話が聞きたかったんです!文字組も含めて目に優しいなと感じていたのはそういうことだったのかしら。


ー文字組は本文の高さと表紙の文字、背表紙のタイトルの高さを同じにしていて、グリッドというんですが(写真参照)それを共有しています。自分は表紙と中身は同じものだと思っていて、表紙だけがしっちゃかめっちゃかするのではなく、ちゃんと中身と繋がっていてほしい。今は中身と外見がバラバラなものも散見されて、中身と外見を同じにする感覚を取り戻したいというのもありました。
 
 

 

ーなるほど。これはお客さんからですが、スピンがすごく綺麗に見えるという感想がありました。これは確か特別なものでは無かったですよね?


ー特別な色とかではないですが、白い本の中にこれが入るとアクセントになりますね。スピンはこれ(写真参照)を使っています。
 
 


ー外側のデザインがシンプルだからこそ際立って見えるのかもしれませんね。

 
 
後編 へ続く
 
 
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◆◆ 横山雄さんプロフィール ◆◆
イラストレーター/グラフィックデザイナー。桑沢デザイン研究所卒業。第33回 ザ・チョイス年度賞入賞。第83回 毎日広告デザイン賞 最高賞受賞。
柴田元幸×トウヤマタケオ / J・ロバート・レノン『たそがれ』CDデザイン、中村佳穂『AINOU 日誌』デザイン、星野智幸『焰』装画・題字、『ランバーロール 1号』寄稿など。
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