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MAGAZINE

ISSUE:01 「綺麗なまま尖っている本」横山雄さんインタビュー・後編

「綺麗なまま尖っている本」

横山雄さんインタビュー・後編

 

 
4月に刊行した庄野雄治『たとえ、ずっと、平行だとしても』。
その装幀を担当してくださった、デザイナー/イラストレーターの横山雄さんにインタビューしました。
前編では造本についての細かなお話を聞くことができました。
後編は横山さんのデザインのインスピレーション源、本についての考え、今後の展望などを伺います。

 
TEXT by カワイアミ
 
 

 

 

横山さんのデザイン・イラストについて

 


ーさてここからは横山さんのデザインやイラストについて聞いていきたいと思います。


ー先に話したジャンプ率を上げないということ、そして自分のずっと好きで興味があるものは、やっぱり古いものですね。書体の感じとか、レイアウト、各見出しのカテゴリーを分ける時に使う謎の記号とか、括弧とかが好きで。昔はフォントの種類もそんなに多くなかったし、できることが少なかったからそ見出しや装飾として記号が用いられていたんです。


ー年代でいうといつあたりがお好きですか?


ー日本のものも海外のものも含めて、20~40、60~70年代のものですね。古いほうが素晴らしいという訳ではないんですが、最近はデータっぽいツルツルしたデザインが多いので、ガサガサした物を作りたい。なくなっちゃうのは勿体無いし。個性的なこととかオリジナリティがあることをしているわけじゃないんですが、それでいいと思ってます。
坂本慎太郎さんがいいこといいってて、「たぶんね、つまんなくなっちゃうと思うんですよね。自分が作るものが、過去に聴いたことあるものに聞こえて。僕も一時期ありました。何聴いてもつまんなく感じるというのは。だけど曲がつまんなくてもいいやつってあるじゃないですか。なんも凄いことしてないのに、すごくいいとか。そのへんに注目していくと、限界がないんですよ。」って。
私も同感で、新しいことやオリジナリティばかり考えるのは、これだけ過去の人たちが十分やってきてるし過剰なんじゃないかなと。そう思ったら古い要素を使うことに劣り目は感じなくなって。むしろ同様のものが好きだけどデザイナーがいないと感じている人にとって、自分がそうなれればいいなと。

 
 

横山さんのデザインソースたち
 
 


ー当初からこんな感じだったんですか?


ーいや、全然そんなことないです。いつからかな。まず絵が好きなんですよ。絵も似たような感覚があって、20~40、60~70年代のドローイングがすごく好きで、デザインもそれに寄っていったのかな。なんか過剰じゃないものが好きなんですね。


ー特に好きなアーティストとかいますか?


ー絵だとクレー、マチス、ミロ、ベン・シャーンとか。詩的、情緒的っていうのもあるけど、たぶん「完璧な画面」というものよりも「紙の上に何かが定着している」っていう状態の方がが自分は好きなんだと思います。版画だったりとか、日焼けしまくった紙にドローイングが残っていたみたいなものの方が、完成して保存されたでっかいタブローとかよりも興味がある。ペラペラの紙にビジュアルとか時間、情景が乗っかっているそういう状態ですね。それがデザインにも出ているのではないでしょうか。
自分が今古いモチーフを使ってデザインをやって、それが完全に過去の人と同じようなものにはならないし、どこか今っぽいところが出るだろうし、むしろ出したいなと。


ー横山さんを通せば絶対に今の時代の感じっていうのは出ちゃうはずですもんね。今を生きているわけですから。


ーそうですね。だから面白がって古いものをソースにしてっていうのはよくやってます。10年くらい前からヘタうま感みたいなのが流行っているんだけど、それがもう「安定」になっている。出始めっていうのはすごく異物感があってわからないという感じだったけど、今はもうわかられちゃった。だから同じようなシステムやその精神は抽出して大切にしつつ別のところでやる方法、自分が好きな昔のものをモチーフにして再構築できないかな。
どこか野蛮な感じというか、素人目に見て一見綺麗そうに見えるけどわかる人から見ると「こいつめちゃくちゃルール無視してるよな」というようなもの。
綺麗に見えて尖っている、そういうものを目指しています。
自分は自己表現がしたいわけじゃなく、自分と通ってきた道が一緒というか「あなたもそれ好きなんですか?自分もそれ好きなんですよ!」という人と出会いたいので、なるべく仕事だからといって全然違うものを作ったりすることは、あんまりしなくていい時はしないようにしていて。なんかそのほうが「俺ってこうだぜ!これが俺の作品だぜ!」みたいな人よりは、自分と似たような人、そういうデザインを求める人と出会えて結果、いい仕事ができるなと。


ー今回は発行人の(橋本)竜樹さんも庄野さんもそういった感じの、同じようなスタンスの方たちでしたね。

 

本について

 


ー横山さんは本というものについてはどのように思っていますか?


ー自分のまわりは活字を読む人や書く人が多いので、自分は本のデザインをやるからにはもっと本を読みたいと思っています。
今はインターネットの方が責任が重くなってきていて、望んでいないところまで届いてしまったり、誰かがある部分だけをピックアップして保存してたりして、サイトが消えたからなくなるとかではなくて逆に一生残るものみたいになりつつあるから怖いですよね。
本はここに物としてあるからそういう切り取られ方はしないし、ちゃんと前後関係があるし、本の方がこれから自由になっていきそうな気がしますね。
本を書くのって楽しそうです。


ーうちのような小さい版元も増えてきているし、面白くなっているようですね。


ーあとはなんにせよ、作るにも手に入れるにもお金がかかるってことは大事ですね。そうなると嫌でも出すほうは変なものを出すわけにはいかないとなるし、買うほうも買ったから読もう、本棚においておこうとなる。なんかそれって物だから最高っていうよりかは、有料であることによって全員の責任が重くなっているって意味でいいなと。


ー確かに、私たちはいつも物(レコードや本)を作ることにとても責任を感じています。


ーあとはデザインの観点から言うと、本は書店に並んだりしているときの広告としての役割と家に持ち帰ってからはそれがインテリアになるという2つの要素があって。
だから両方にあっても成立するような状態にしなくちゃいけない。だからそのほうが売れるからと広告としてやりすぎてしまって、家に置いておきたくないなというものにならないようにするという責任も自分は感じています。

 
 

事務所の風景
 
 


ーう~ん。内容は読みたいけど、あんまり手元に置いておきたくない本ていうのはありますね。外見が全然好きじゃないっていう。


ー大手出版社の漫画とかだとすごい巻数が出ていて、応援したいから買いたいけど家には置いておけない、だからそういうものは電子書籍で買ったりするかな。
だから電子書籍=悪いとも思わないですね。


ー内容によっては電子書籍は便利ですよね。あと本はどこでも好きな時に読めるのがいいですよね。


ーそう。それもすごく思いました。自分は絵の展示をやりますが、どんどん人の特定の時間を拘束することが難しくなってきているなと感じていて。イベントもすごく多いし、NETFLIXとか娯楽もたくさんあるから、時間の奪い合いをしている。ここからこの期間だけこの場所に来てくれと足を運んでもらうことの難しさを、最近周りの絵描きの友人たちも痛感していました。展示じゃなくて例えば画集とか本なら、自分の好きな時間に好きな場所でじっくりと作品と向き合える。


ーそうですね。私が本に求めていることの一つは静けさなんです。もちろん電車などでの移動中に読んだりもしますが、本を読み始めたらその中の静けさにスッと入り込む感じなんです。それがスマホやパソコンだとできない。なんでだろう。


ー単純にSNSとかって英語圏の物なので日本語に最適化されてないんですよ。よく思ってるんですけど、アルファベットの行間って小文字ベースだから行間がすごく狭いんですよ。アルファベットと日本語って読むのに最適な行間って違っていて、日本語はもっと行間が広くないといけない。それがTwitterとかinstagramとかだともうギュウギュウなんですよ。だから見てるとしんどい。そうなると本だと目が疲れないし、読みやすい。やはり自分は活字が好きですね。
あとデザイナーとして文字を扱うけれど、それって言葉を扱うことと同じだから、その文字の持つ意味とかニュアンスとかって無視できないです。文字はただのグラフィックではないから、ブックデザインをやるからというわけではなくても、言葉について追求をしていく必要があると思います。そういった意味でも本は読むべきだなと。


ーSNSの視覚的なしんどさやうるさい感じって行間だったんですね。デザイナーらしい視点だなぁ。納得です。

ではそろそろ最後になりますが、今後の展望などはありますか?


ー外側(装画、装幀、デザイン)のことをやっているんですが、中身を作りたいなという気持ちになっています。もちろんデザインとかもやっていきながら、文章でもいいし、漫画もやりたい。そういうところは庄野さんと似ているのかもしれない、同業者の業界バトルに巻き込まれたくなくて(笑)。頑張らないってわけじゃなくて、いい人生にしたくって。自分の考えや時代が変わって行くことに対して自然に柔軟に対応していきたいなと思っています。自分のことはよくわかっているので、絵だけやっていてもデザインだけやっていても自分を苦しめることになりそうだから(苦笑)。お互いがお互いに還元されていくこともあるはずですし。
中身を作るとデザインも中身の扱い方がすごく変わると思うんですよ。最高のブックデザイナーだけど中身を書いたことがない人よりも、自分は最高じゃないブックデザイナーで中身を書いたことがある人になりたい。あと将来中年になったら教職をやりたいななんて思っています。

 
 

横山さんの漫画やデザインしたフライヤーなど
 
 


ー横山さん教職似合いますね。語り口が先生ぽいって前から思ってました(笑)。


ーそうですか(笑)。


ー今日は細かなところまでお話が聞けてとてもよかったです。今後の活動も本当に楽しみにしています。ありがとうございました!


ーありがとうございました。
 
 

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◆◆ 横山雄さんプロフィール ◆◆
イラストレーター/グラフィックデザイナー。桑沢デザイン研究所卒業。第33回 ザ・チョイス年度賞入賞。第83回 毎日広告デザイン賞 最高賞受賞。
柴田元幸×トウヤマタケオ / J・ロバート・レノン『たそがれ』CDデザイン、中村佳穂『AINOU 日誌』デザイン、星野智幸『焰』装画・題字、『ランバーロール 1号』寄稿など。
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