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de.te.ri.o.ra.tion

MAGAZINE

橋本竜樹の日記〜2020.04.17-04.23

序文

de.te.ri.o.ra.tionはアナログ音源をリリースするレーベルとして活動をはじめましたが、庄野雄治さんの短編集『たとえ、ずっと、平行だとしても』を出版するために設立したDeterio Liberを中軸に、今では読物にも活動の幅を広げています。

当ウェブサイトの“Magazinge”では『ナオヤ・タカクワの日記』が始まり、捻れたユーモアと批評の精神に富んだ、そして文学青年らしい儚い苦味が時折心に刺さる、そんな彼の日常が公開されています。

「ブルーマンデーという言葉がある。月曜日に仕事が始まって憂鬱になるということだ。気のせいか月曜日には電車も普段より混み合って見える。その混み方がより一層僕たちに憂鬱をもたらす。」ナオヤ・タカクワの日記 2020年4月27日


そして6月にはPunPunCircleの久しぶりのリリースがあります。PunPunの新しい楽曲は以前にもまして郷愁感が漂い、歌詞においても、ベイルートへの流浪を経て、孤独な詩人としての佇まいを深めています。


「冬が降る 砂漠 冷めてきた 時代  初めて祈った 全て休ませて」 PunPunCircle / Spring


リリースに合わせて、PunPunとnakayaanによる多国籍音楽のディスクガイドのコラムも計画しています。こちらも楽しみにしていてください。


それでは、これからもde.te.ri.o.ra.tionをよろしくお願い致します。
と、これで告知文を終えたいところですが、あとひとつ。


僕も日記を書くことにしました。
批評も文学もカルチャーもない、ただの日記です。
それを人目にさらす理由も当然ないのですが、とりあえずやってみようの精神で始めます。


音楽や芸術に派生する仕事についたものの、自分に才能が無いと気づいてからの方が長いわけで、後戻りもできず続けるしかなく、しかし、それを“後悔”とするか、“終わらない芸術への憧れ”とするか、そんな日常を書き留めていきたいと思います。


嘘です。ほんとはただの家事日記です。


2020年春

4月17日
酢飯

子供に手巻き寿司で宴を開きたいとせがまれる。
手巻き寿司は支度が面倒くさいのでお断りしたいところだけど、
ご飯くらいは楽しくしてあげようかと思い、聞き入れることにする。

酢飯を作るとき塩の量に慄き、
米に砂糖をいれることに罪悪感を抱く。

でも不甲斐ない酢飯はいやだ。


4月18日
大雨 焼きりんご

朝起きると昨晩からの雨が降り続いていた。
朝食用に買ってきた安いリンゴがまずいと不評だったので、
芯をくり抜いてバターと砂糖、シナモンを詰めてオーブンへ。

写真を撮る前に食べられてしまった。
美味しかったとのこと。

夕方になって、やっと雨があがった。


4月19日
バレエダンサー

深夜にテレビをつけるとバレエをやっていた。
美しい人たちの演技をみ観ていると、なぜか蔵六のように消えたいと思っていた(思いあがっていた)
痛々しい10代の頃を思い出す。

そういうのはもうないけれど、今でも身体を使った表現に憧れる。


4月20日
注射

かれこれ一ヶ月ほど神経痛らしい肘の痛みが治らず、家族の勧めでペインクリニックを訪ねる。
背中に二本、首に一本、神経ブロック(だったかな)注射というのを打ってもらう。
首に薬が入ってくる感じは少し怖かった。

しばらく麻酔効果でふらふらするが、効果はあるようで、
一ヶ月続いた痛みが消えて感動した。

待合室の壁に貼ってあった肝臓強化注射の案内がとても気になった。


4月21日
生姜醤油

ヒレカツを揚げる。
思いつきで生姜醤油を用意したら評判がよく、
みんな蕎麦をすするようにカツをたいらげていく。

フライに生姜醤油を合わせるのは、
昨年に店を閉めてしまった上町のとんかつ屋で覚えた。
カキフライが美味しい店だった。

でも僕はソースとからしが好きだ。

※これはニンニク醤油


4月22日
ワイン

浅蜊と金目鯛の切り身が安くなっていたのでアクアパッツァを作ることにする。
ニコラの曽根さんにコツを聞くということにして、ワインを飲みに行く。
カウンターで4杯ほど飲んで店を出る。
帰宅して教えてもらったように作ったら、いつもより美味しくできた気がする。

歪なりに日常を過ごしている。


4月23日
終末

仕事はすっかり暇になった。
そのおかげでde.te.ri.o.ra.tionのニューリリースの準備をしている。
ローズマリーの鉢をリビングに置く。片付けをする。
あと出来ることといえば散歩くらい。
初心者向け金継ぎセットはまだ開けていない。

無職だった20代の頃に戻ったようで、今のところはのんびり楽しくやっている。
野球が観れないのだけは寂しい。

2001年は個人的に、2011年は311、2020年は疫病と
10年単位で終末感に遭遇している。
おかげで正気を保って歳をとっている気がする。



続く


執筆者:橋本 竜樹 / ハシモト・タツキ

de.te.ri.o.ra.tion主宰、Deterio Liber発行人。

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