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Where Are You Going? 〜第二回 nakayaanの音楽紹介コラム〜

前回の記事

de.te.ri.o.ra.tion主催タツキさんより、プンプンさんに続いて「非西洋圏の音楽」を紹介する文章を書かないかとお誘いを受けましたので、あまりまとまった文章を書くこともない自分ですが、筆を執った次第です。お付き合いください!

非西洋圏の音楽へのいざない
「非西洋圏の音楽」に魅了されるミュージシャンは多く、遠いクラシックの時代から枚挙に暇がありません。今も昔もその神秘性・精神性が人を虜にするのでしょう。ポップスにおいても東洋の音階を取り入れた楽曲は時に大ヒットを記録することもありますが、西洋の音階において異物である音が入っていることによる呪術的な不気味さは、良い意味で人の記憶への引っかかりにもなる事でしょう。

わたしの「非西洋圏の音楽」の原体験は何だったのかなと記憶を辿ると、幼少期から浴びるように聴いてきたザ・ビートルズと、コンピューター・ゲームの音楽たちだったのかな思います。ジョージ・ハリソンをはじめザ・ビートルズのみなさまがたは活動中期以降インド文化に傾倒し、伝説的シタール奏者ラヴィ・シャンカールとも友好関係を築き、なんて事は書くまでもない事ですが、わたしが多分7歳くらいの頃、夕暮れ時に車で祖父の家から帰る途中、カーステレオから流れてくる『Within You Without You』のシタールやタブラの音が、得体の知れない、現実味のない音に感じてとても怖かった記憶があります。幼いながらに精神世界の扉の接近を感じていたのかもしれません。また、コンピューター・ゲームに登場するワールドミュージックも大好きでした。例えば国民的RPG、ドラゴンクエスト3のピラミッドでの音楽は非常に印象に残っています。

8bitながら見事にアラビアの旋律ならではの猥雑さやスリリングさが表現されており、禁断のアイテムを取り行く過程で呪いを受け、死ぬまで敵に襲われまくるというゲーム内容も相まって、自分の中に恐怖とともに刻み込まれています。何だか怖がってばかりですが、身近なところにも「非西洋圏の音楽」への扉を開くきっかけは多く存在するよね、という前置きのような話でした。

今回の投稿では以下で2曲を紹介していきます。

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Gabor Szabo / Galatea’s Guitar


この曲はわたしがここ数年で一番聴いている(かもしれない)アルバム、ガボール・ザボの68年作『Dreams』の1曲目です。(動画はfull albumですが、全ての曲が素晴らしい作品なのでよかったら是非通し聴きを。)ガボール・ザボはハンガリー出身のジャズギタリストですが、彼が20歳のころ(1956年)にハンガリーでは、反共の革命軍が蜂起するも、ソビエト連邦軍に粉砕され、結果膨大な市民被害と難民を生み出す事になる、いわゆるハンガリー動乱が発生します。
ザボは蜂起前夜にアコースティックギターを片手に隣国のオーストリアに亡命を遂げるという、他人事目線で言うとかなりドラマチックな出自の持ち主なので、彼のギターの音には常に寂寥感や退廃的な響きが宿っているのも頷けます。彼はそれからアメリカに亡命し、バークリー音楽院で音楽を学びますが、ここでソフトロック・イージーリスニング的な文脈で個人的にも大好きな作曲家、ビブラフォン奏者、プロデューサーのゲイリー・マクファーランドと出会います。
60年代のザボの諸作には共同制作とかプロデュースとかで彼の名が連なっており、今回紹介した『Dreams』も例に漏れず彼のプロデュース作となるわけですが、ザボのロマ(ジプシー)・ミュージックのルーツを最大限に引き出しつつ、幻想的な雰囲気に仕上がっているのは完全に彼の功績なんだろうなと思います。パーカッションにたまにかかる残響が霧のようで美しいです。エミール・クストリッツァ映画での狂乱のロマ・ミュージックも勿論心を揺り動かされますが、ザボとマクファーランドによるスカスカで気怠いロマ・ミュージックはさながらメディテーション。全然抜け出せません。

Gabor Szabo / Walking On Nails


すでに長文になってしまったので、もう1曲だけザボの曲を紹介して今回は終わりにしたいと思います。前述の『Dreams』よりも2年前にリリースされた『Jazz Raga』というアルバムでは、インド音楽に傾倒したザボが全編に渡ってシタールも弾いています。この曲は、曲名こそジャケの絵の通りインドの修行僧が苦行で針の山の上を歩くそれですが、曲調は牧歌サイケという感じで和みます。

今回は一応ハンガリー編ということで(アメリカのレコードやんという声が聞こえますが。)次回また違う地を目指します。
それではまた。

おまけ
私もステイホーム期間を経て料理への関心が高まっています。プンプンさんに続いて何かその地の料理をと思い、ハンガリーの代表的料理・グヤーシュ(肉のパプリカ煮込み)を作ってみました。ボルシチとの違いがあんまり分からない仕上がりになりましたがかなり美味しかったです。


執筆者:nakayaan(ナカヤーン)

ミツメのベーシスト。2014年に11曲入りのアルバム『EASE』をリリース。以来不定期にライブ活動を行いつつ、2017年にはフリーダウンロードで『Кин – дза – дза! / Orgy of the Dead』, 『Death Proof』の2作をリリース。2019.12.11には初の7inch vinylであり最新作の『immigrant / proslava』をリリース。

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