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Where Are You Going? 〜第七回PunPunCircleの音楽紹介コラム〜


非西洋圏の音楽紹介コラム、前回は内藤彩さんでした。第七回はPunPunCircleです。

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今回はレバノンで1977年にカセットリリースされ、去年レコードでリイシューされたこの一枚を書いてみようと思います。

Mouasalat Ila Jacad El Ard / Issam Hajali

Discogs


改めて、このコラムは隔週でnakayaanと交代で書くというところから始まり、途中からはアヤちゃんも混じったのでかなりゆったりな更新です。そして、一人全3回という話から始まっているので自分は今回が一旦最後になります。
僕は中東の音楽が好きなので第一回にイスラエル、第三回にイラン(イスラエルのミュージシャンですが)と来て、最後は何となくエジプトのDonia Massoudという歌手について書こうなんて思っていたのですが、これだけゆったり更新で進んでいくと世の中では様々な事が起こるわけで、今月初旬にレバノンのベイルートでは大事故のニュースがありました。

ちょうど一年前ベイルートを観光していた事、爆発事故の場所が自分が滞在していた場所にとても近かった事、この前リリースした自分のEPに「Beiruit」という曲を入れた事、偶然に7月末くらいからこのアルバムを聴いていた事、って事から、この一枚の紹介にしようと思いました。

一枚を通して聴いてみると、当時のアシッド・フォークやサイケロック、特に南米(例えばミナス)なんかの作品でこんな名盤何個か聴いた事あるなっていう質感。
それがアラブ語で歌われてる感触が堪らなくハマってしまいまして、繰り返し聴いています。

レコード化したのはドイツのHabibi Funkというレーベルで、エジプト、モロッコ、スーダン、リビアなど北アフリカ周辺アラブ圏の古めなレアグルーブ盤をリリースしてくれる超俺得なレーベルなので結構チェックしちゃいます。

https://habibifunkrecords.bandcamp.com/

レバノンは1975〜1990くらいまでずっと内戦下にありかなり悲惨な状態だったのですが、Issam Hajaliはちょうど内戦開始直後にしばらくフランスに亡命し、そこで出会ったアラブコミュニティのミュージシャンとこの作品を録音したようです。
当時はお隣のシリアが侵攻してきたり、PLO(パレスチナ解放機構)がレバノン内を拠点にしていた事もあり、彼が亡命したということはキリスト教徒かな? とかいらぬ想像しながらも聴いてしまうのですが、レバノンはイスラム教徒とキリスト教徒が約半々で共存している国が故、ポップスにはかなり寛容な国なのです。
前回のイランでも書きましたが、宗教や反米・反西洋思想が絡み始めると途端にポップス的な音楽が難しくなってしまう傾向があるイスラム圏ですが、アラブポップスを追いかけ始めるとレバノン(とエジプト)って凄く重要な国だなって気づきます。(エジプトは早くから世俗化が進み、寛容である背景なのかなと認識してます。もちろんその他各国色々音楽はありますけどね)

レバノンにはアラブの歌姫として語り継がれるFairuzという歌手がいるのですが




内戦時、イスラム教徒もキリスト教徒も彼女の歌を皆愛したそうな。ちなみにFairuz自身はキリスト教徒です。
そして、Issam Hajaliのこのカセットをレバノンで広めたのは、Fairuzの息子Ziad Rahbaniなのだとか。




ごちゃごちゃ書いてしまいましたが、中東音楽を追いかけてしまうのってなんでだろうと考えると、上記したような内戦や宗教など、今までの自分の人生には到底なかった、そして想像もし得ない環境・感覚の中で作られた音楽を好きになると、なぜかモヤモヤした気持ちが生まれるのですが、そのモヤモヤが何なのか知りたくて、また別のもの探してる気がします。

Issam Hajaliは存命で、ベイルートで宝石店を営みながらまだ音楽を作っているとのこと。。
爆発事故で、お店は無事なのだろうか。

最後に、6月にリリースした自分の「Spring – EP」の写真はベイルートの海で撮った写真です。ここも爆発したレバノン港からそう遠くない場所。またいつか、生きてるうちに行けたらいいなぁ。





執筆者:PunPunCircle

2020年6月3日に『Spring – EP』がデジタル配信スタート。
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